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東京高等裁判所 平成7年(行コ)96号 判決

控訴人(原告) 旭保幸

被控訴人(被告) 警視総監

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

一  本件は、交通事故を起こしたとして、被控訴人から平成五年九月二二日に同日より六〇日間自動車運転免許の効力を停止するとの処分を受けた控訴人が、その取消を求めた事案に関し、原審が控訴人の本件訴えは、取消訴訟によって回復すべき法律上の利益を有せず訴えの利益を欠くとしてこれを却下したので、控訴人が控訴した事案である。

二  当審における当事者の主張

1  控訴人の主張

(一) 控訴人は、本件処分の取消しによって、優良運転者として認められるべき地位を回復する。取消判決の拘束力は、取消判決の主文のみならず、理由中の判断にも生じ、主要事実が違反行為の有無である本件において、取消判決が確定すれば、違反行為はなかったという判断について拘束力が生じ、そのことは当然に優良運転者たる要件に影響を与える。取消判決の拘束力に基づく違反事実の抹消がなされないかぎり、優良運転者として扱われる可能性は全くない。

控訴人が、後記被控訴人主張の日時、場所において、踏切の直前で停止せず進行し、道路交通法三三条一項に違反したことは認める。

(二) 本件は、訴え提起を事実上封じつつ、本件処分の日から一年経過直後の審査請求棄却であり、審査請求を申し立てた場合、その結論が出るまでは出訴に及ぶことは期待できないので、一年経過で訴えの利益を認めないのは妥当でない。

2  控訴人の主張に対する被控訴人の答弁

(一) 控訴人は、運転免許の更新日までに、継続して免許を受けている期間が五年以上ある者に該当するが、更新年の免許の有効期間が満了する日の四〇日前の日、その他一定の日から遡ること五年間において、違反行為をしたことがない者には該当しないから、控訴人が、優良運転者として運転免許の有効期間の延長を受け得る利益を有する者に該当しないことは明らかである。

すなわち、控訴人は、平成七年一一月一二日午後五時一〇分頃、茨城県下妻市大字下妻甲三五番地先路上において、自家用普通乗用車(車両番号足立五三ぬ九六二三)を運転して踏切を通過しようとした際、踏切の直前で停止せずに進行し、道路交通法三三条一項の規定に違反した。

(二) 道路交通法上、停止処分の取消しを求めるにつき審査請求前置を規定した条文が見当たらない以上、控訴人のこの点に関する主張は失当である。

第三証拠〈省略〉

理由

一  当裁判所も、本件訴えは訴えの利益を欠く不適当なものと判断する。

その理由は、以下に付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」中「第三 争点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八丁表七行目の末尾の次に、行を改めて次の記載を付加する。

「このことは、取消判決の拘束力が、取消判決の主文のみならず、理由の判断にも生じると解しても同様であるから、控訴人の当審における前記二1(一)の主張は採用できない。

また、前記一に判示したとおり、取消訴訟の目的は、違法な処分により自己の権利又は法的な利益を侵害された者が、処分の取消しによって、その法的な利益を回復することにあるから、処分がされた後の事情の変化などによって、たとえ処分を取消したとしても、訴えを提起した者の法的な利益の有無に影響を及ぼさないこととなった場合にも、処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきである。ところで、控訴人は、平成七年一一月一二日午後五時一〇分頃、茨城県下妻市大字下妻甲三五番地先路上において、自家用普通乗用自動車を運転して踏切を通過しようとした際、踏切の直前で停止せずに進行し、道路交通法三三条一項の規定に違反した(この事実は当事者間に争いがない。)。右違反行為により、控訴人は、運転免許の更新日までに、継続して免許を受けている期間が五年以上である者に該当するが、更新前の免許の有効期間が満了する日の四〇日前の日等から遡ること五年間において、違反行為をしたことがない者には該当しないことが明らかである。控訴人は、本件処分の取消しにより、道路交通法九二条の二第一項、同法施行令三三条の七の規定による優良運転者として認められる地位を回復する余地はない。」

2  原判決八丁裏五行目の「かのようである」を削り、同六行目の「見当たらないから」を「なく」に訂正する。

二  よって、本件訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものとして、これを却下した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小野寺規夫 榎本恒男 坂本慶一)

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